総合ディレクター【南條 史生】からのメッセージ

芸術祭会場に想定されている茨城県の北部(茨城県北地域6市町)は風光明媚な海浜部と自然豊かな山間部の双方が複合して独自の世界を形作っている。そこは、伝統的な文化・社会に根ざした生活が営まれている一方で、大都市東京も近く、現代の新しい技術、文化からも至近距離にある。

茨城県内の歴史を振り返ってみると、この地域では江戸の末期から炭鉱が開かれ、日立周辺は銅鉱山、工業・産業が発展し、明治以後の日本の近代化を支えた地域であった。一方、北茨城の五浦はアジアの美学の重要性を唱えた岡倉天心や横山大観らが居を定め、日本近代美術の発展と深い関わりを持ったことで知られている。

近年では、アーティストのクリストが、常陸太田にアンブレラ・プロジェクトを実現し、先進的なアートの発信が話題になった。県内には筑波大学や研究所等が所在し、「科学万博−つくば’85」の開催地になった経緯もあり、茨城県は日本のアートと科学技術発展の拠点にもなっている。

そこでこの芸術祭は、茨城の持つこのような先進性に注目し、自然との対話と同時に、最先端の科学技術との協働にも注目をしていきたい。現代において、美術はもはや絵画と彫刻からなるだけではない。科学技術を使ったメディアアート、さらに次世代の変革を担う生物学を援用したアートも登場している。こうしたアートの新しい可能性を紹介することも茨城らしいこととなるだろう。

創造的であることはより良く生きることにつながる。人間はいつの時代も工夫を凝らし「さまざまなもの」を作り、「技術」を革新してきた。ユニークなアイディア、独自の視点、新たな試みをもって前に進むことは喜びである。こうした喜びを、アートを通して地域の人々と共有したい。

自然、科学技術、人間性の統合を可能にするのはアートである。アートこそが、多様な知と創造的な思考、分野を超えた協働と地域に根ざした活動、哲学的視野と生きる喜びを統合して、明日への新たなヴィジョンを開示できるのではないだろうか。

こうした確信の上に立って、茨城県北の芸術祭は、海と山の自然、歴史と生活に彩られた町の中に「驚きと感動」を誘う最先端の芸術作品を招聘し、地域に根ざした「今ここ」でなければ生まれてこない独自の芸術祭を誕生させたい。そして、地域の人はもちろんのこと、好奇心に満ちた日本の、そして外国の多数の人々に茨城県北の魅力を発見してもらいたいと願っている。


「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」のプレ企画として、芸術祭の会場である高萩市・穂積家住宅にて、アートトークが開催されました。総合ディレクターの南條史生氏が芸術祭への意気込みや、芸術祭の概要を語ります。
<2015年10月18日、高萩市・穂積家住宅>