不思議な苔の玉にバイオアートの未来を垣間見る
県北芸術祭のバイオアート作品・三原聡一郎
常陸太田市の旧自然休養村管理センターのロビーに置かれた苔玉。県北地域の苔で作られた苔玉が時折動き出します。その不意な動きに、見ている人々は驚かされます。
作家の三原聡一郎は、世界の砂の多様さに魅了され、土壌のリサーチをする中で砂や土に棲息する微生物で発電する微生物燃料電池(MFC)に出会いました。この微生物燃料電池のシステムを自ら研究し、土地と供に生きる生命も含めてアートとして展開しました。
出来れば、三原は「苔に歌わせたり、踊らせたいと」夢を語ります。
動く苔玉と人間。この不思議な出会いを皆さんも共有しませんか。
石田尚志
石田尚志:旧展示室 D-05
作品タイトルは、以前展示室として使われた大きい部屋にちなんでいます。コンクリートの壁に差し込む光を観察するように、チョークや水を使って描き進め、その工程を撮影しアニメーションが制作されました。
絵を描く中で生成するプロセスを重視し、その映像から空間的なインスタレーションを仕上げる手法は、絵画、アニメーション、空間がつながった石田独自のものです。光と闇を意識したアニメーションが、描いた痕跡が生々しい空間で映写されています。ゆっくりご鑑賞ください。

ヴァイド・インフラ
ヴァイド・インフラ D-08
吉岡裕記、金岡大輝、砂山タイチ、御幸朋寿、三桶シモン、加藤昌和、高岸寛によるチームは、「ハッカソン」という方法で集結したデザイナーや建築家によるチームです。
「ヴァイド・インフラ」は、ラテン語で「下を見よ」の意味。ボトムアップやミクロな視点から世界を捉えようとする意志が感じられます。
彼らは、県北地域に根づく発酵文化の中でも納豆に注目、納豆菌によってかつてない素材を作ろうと実験を重ねてきました。菌から納豆樹脂を作り3Dプリントで構造物を作りました。
廃棄しても微生物に分解され自然に戻る、という構想は現時点では実現途上ですが、これまでのドキュメンタリーにフィクションを織り交ぜた映像作品、そして実験の成果物である3Dプリントの造形を見事に表現しました。

岩崎秀雄+metaPhorest
岩崎秀雄+metaPhorest:aPrayer まだ見ぬ つくられしものたちの慰霊 D-06
生命科学の最前線で行われている細胞の人工的合成と県北地域の発酵文化を「慰霊」をめぐって結びつけ、生命とは何かを問いかけます。
手前の茶室は人工細胞と発酵微生物の慰霊空間となっており、架台にはスライドや資料に加え、ガラス壺に研究道具や微生物が収められています。
左手奥の和室では、人工細胞関係者、地元の発酵・醸造・石材・慰霊碑関係者のインタビューが流れています。
そして地元の方々の協力のもと、人工細胞と発酵微生物の慰霊碑が市内里美地区に恒久設置されました。生物学者・造形作家の岩崎(早稲田大学理工学術院教授)が主宰する生命美学のプラットフォームmetaPhorest(ルビ:メタフォレスト)のメンバーから齋藤帆奈、飯沢未央、切江志龍が参加しています。

オロン&イオナ&マイク
オロン&イオナ&マイク:ケアとコントロールのための容器 D-04
西オーストラリア大学のバイオアート研究センターSymbioticaA(ルビ:シンビオティカ)創設者でディレクターのオロン・カッツ、彼とともにバイオアートの第一人者であるイオナ・ズール、アーティストで養蜂家のマイク・ビアンコの共同作品。
県北地域の豊かな自然を生かし、2台の孵化器(ルビ:インキュベーター)をアートとして運用します。一つは巣箱を備えたミツバチの孵化器。ミツバチたちが外界と行き来をしています。もう一つは微生物の孵化器で、コンポスト(有機物を微生物の働きで分解する堆肥)の発熱で維持されます。孵化器の土は、会場近くで採取されました。閉じた研究室にとどまらず、地域の生態系と関わっていく最先端のバイオアートの取り組みです。

BCL
BCL:折り紙ミューテーション D-09
ゲオアグ・トレメルと福原志保を中心にしたアーティスティックリサーチ・フレームワーク「BCL」の新作です。
県北地域の西の内紙によるこの折鶴は、じつはバイオアートの最先端を取り入れたものです。DNA鎖を折り曲げ、ナノサイズで構築できる構造体「DNA折り紙」を和紙に入れ込みました。DNA折り紙による折り紙、という二重の意味が含まれています。
その制作方法は、鶴の折り紙(三次元)をモデルに、その形に沿って特定の温度環境によって合成DNAの折り紙を形成。そうやってできたDNA折り紙を変異・増殖させたものを減菌水に溶かし、和紙に注入した上で鶴を折っています。
伝統的な和紙と合成生物学とを合体させた新しいアートの方向性を示唆しています。