日立市郷土博物館:久保裕撮影
日立市郷土博物館に作品展示を見に行く。2つの作品展示があり、その1つ「日立工場の建物間に何もない場所で、私は未開人と飢饉や戦争の犠牲者たちを織り込んだ詩を読む」という大変に長い題名の作品。
日立市郷土博物館は「市民の教養と憩いの場」として、郷土にかかわる考古・歴史・産業・民俗資料、美術資料を収集・保存・研究・展示をしている。常設展示では、豊かな自然の中で展開されてきた日立の歴史と産業の移り変わり、庶民のくらしとまつりに関する資料を展示している。
この作品展示の作者・ベトナム人のティファニー・チュンは、工業都市の日立市をその昔に常陸国風土記が書かれた8世紀のころまでさかのぼり、現在至る歴史を見つめている。
戦中、戦後の苦難と発展の歴史、戦争中の生活は食料不足の時代があった。ティファニー・チュンは、長期にわたるベトナム戦争での同様な忍耐と苦難の道を重ね合わせる。
五馬力モーター:久保裕撮影
日本でも産業の町が急速な発展を遂げるが、やがて衰退して人口減で消えて行く現象が多く見られる。日立郷土博物館の所蔵品を見ながら、忘れ去られようとしている遠い過去の姿や他の場所で起きていることを見捨てないように、この場所に記録を残し、展示さていることの意味を考えさせられる。
日立の鉱山が閉山し東洋一の高さを誇った大煙突も折れてしまったが、久原房之助の日鉱記念館は残り市民に開放されている。小平浪平が創立した日立製作所も、今、大きな変革の時期を迎えている。
作品の中心には明治43年(1910)に製造された5馬力の電動モーターが置かれている。
日立工場の中にある小平記念館のある丘の上には日立製作所の創業小屋が再現されていて、そこに所蔵されているこの小さな電動モーターのバックには鉄道が開通したばかりの頃の日立駅や日立鉱山精錬所の大煙突の写真などが掲示されている。
小平記念館や日立製作所の創業小屋は日本の産業遺産として残し、一般市民に開放してほしい。県北芸術祭で、世界的な企業に発展している日立製作所の創業の原点ともいえる、わずか5馬力の小さな電動モーターが郷土博物館に出展されているのを見たとき、日立市は、こんな素晴らしい産業遺産を観光にもっと活用すべきだと思った。
(鑑賞記・写真 久保 裕)


ティファニー・チュンの作品:撮影・ブログ管理者

A-12 P63 ティファニー・チュン「日立工場の建物間に何もない場所で、私は未開人と飢饉や戦争の犠牲者たちを織り込んだ詩を読む」
日立市郷土博物館:日立市宮田町5-2-22

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米国在住のアーティスト、ティファニー・チュンは今回の展示のために日立市の歴史と社会について多くの資料調査を行いました。そして最も意義深いと思われる時代のものを、日立市郷土博物館の収蔵品から選び出し、地図やテキストを基にしたチュンの作品と共に展示しています。その併置を通じて、彼女は社会が移り変わって行く様子を私たちに意識させます。さらに、日本の他の都市や、ベトナム戦争後のベトナムの人々の記憶を描写した映像作品を織り交ぜることで、日本に住む人だけでなく、世界中の多くの人々の経験と重なるように全体を構成しています。公の歴史に現れてこない余白には「隠され、忘れられたストーリーがある」と作家は述べているのです。