160927kenpoku
 茨城県北芸術祭が始まり10日余り。17日からの三連休では、悪天候にもかかわらず3万人を動員するなど、好調な滑り出しを切りました。県北の街々には、パスポート券や公式ガイドブックを携えた若い人たちが目立っています。

 今、全国でこうした地域芸術祭が目白押しです。「瀬戸内国際芸術祭」や「あいちトリエンナーレ」は3回目を迎へ、埼玉県でも「さいたまトリエンナーレ」が、茨城と時を同じくして始まりました。地方自治体が実質的に主催する地域芸術祭が続々に誕生しています。
 地域芸術祭のルーツは2000年にスタートした越後妻有の「大地の芸術祭」です。1999年に開催予定であった大地の芸術祭は、地元自治体の首長の反対で、1年延期されました。しかし、始まってみると第1回から15年。2012年の第5回の来場者は48万人を超えています。芸術祭のために、わざわざ都会から移住してくる若者もいるほどです。

 茨城県北芸術祭も、人口減少の進む県北の振興や経済活性化、交流人口の拡大が目的として企画されました。茨城県が主導し、総事業費6億6000万円のうち4億7000万円を負担するビッグプロジェクトです。事業費の内訳は、ディレクターなどの人件費、作品の製作費、アーティストの滞在費などを含めた企画制作費が4億7100万円。実行委の運営管理費5400万円、広報関係費4800万円などを見込んでいます。来場者目標は無料を含め30万人に設定しました。郊外型、屋外型展示で共通している新潟の「大地の芸術祭」を参考に、新潟は2015年には50万人以上が来場したが、初回の00年は16万人でした。今回は秋の観光シーズンと重なることから相乗効果を期待し、その2倍程度を設定しています。
瀬戸内国際芸術祭
 地域振興、地方創生のツールとして注目を浴びる地域芸術祭ですが、ここに来て、その意味を問い直そうとする動きも出てきました。
 それは、現代アートが、人集めの道具のように扱われて、芸術的な評価が二の次になっていないかという疑問です。今年3月に出版された『地域アート 美学/制度/日本』(堀之内出版)が、専門家の中で話題となっています。筆者の藤田直哉さんは、「郷土愛を刺激したりする素朴な作品が多いのが気になっていた。もっと既存の価値観を塗り替える、芸術ならではの価値を感じられる作品が見たい」と出版の理由を話しています。
 これに対して、茨城県北芸術祭の総合ディレクターを務める南條史生さんは、「近代以降、アートは純粋なものという考え方がある。だが、かつて王侯貴族や教会の発注に応えてきたアートが、今は地域社会のためにあるという状況は、アートが民主化したと言えるのではないか」と、反論します。

 上記のインタービューが掲載された朝日新聞の記事(2016/9/23)を引用すると、地域芸術祭の効果について次のように綴っています。
 春・夏会期が終わり、来月8日から秋会期となる「瀬戸内国際芸術祭」は、作品を巡りながら瀬戸内海の自然に触れられる。実行委員会事務局によると、今年はこれまでに約65万人が来場した。3年前の前回は約100万人が訪れ、経済波及効果は約132億円と試算された。会場の一つの男木島には2013年以降、30人以上が移住し、小中学校と保育所が再開。小豆島には13年度以降、700人以上が移住したという。担当者は「島の雰囲気が変わった。芸術祭は、地域の活性化と再生が一番の目的です」。
 都市型の「あいちトリエンナーレ」の総来場者数は前回、約63万人。今回も参加自治体が増えた。新たな芸術を創造することを重要視すると共に、「地域の魅力の向上」も目的のひとつに掲げている。拝戸雅彦チーフ・キュレーターは「アーティストの創造的な考え方が結果的に硬直化した地域社会に風穴を開けることもある」と話す。
 ニッセイ基礎研究所の吉本光宏研究理事は、芸術祭が林立する状況を「社会における芸術のあり方が拡大している」と評価する一方、「今後は地域活性化という通り一遍の目標ではなく、芸術ならではの新たなビジョンを示すことが必要」と指摘する。


茨城県北芸術祭の魅力と課題
 茨城県北芸術祭では、カバコフ夫妻やダニエル・ビュレン、日比野克彦、田中信太郎などの大御所に加え、チームラボ、落合陽一、森山茜、妹島和世などバラエティーに富んだ旬の作家も大集合しています。藤浩志、原高史、北澤潤、 和田永、力石咲、柚木恵介、深澤孝史などの地域住民との連携型の芸術創造を目指すユニークな取組にも目が外せません。最新のバイオアート分野では、常陸太田の旧自然休養村管理センターを中心に、BCL、オロン・イオナ・マイク、岩崎秀雄+metaPhorestなど、この分野をリードするアーティストが目白押しです。さらに、今回初めてアートハッカソンが行われました。アーティスト、エンジニア、デザイナー、伝統工芸職人、建築家、研究者など、様々なジャンルのクリエイター約60名が、アイディエーションとプロトタイピングの計4日間を通じて、作品制作を行いました。茨城県北地域の特性を生かした提案をした3チームが選出、茨城県北芸術祭に参加しています。従来の芸術のカテゴリーを破る様々な取組が行われています。
 ここのアーティストの力量や作品の出来の善し悪しは当然あると思います。しかし、県北芸術祭というステージを経ることにより、作家や作品のクオリティーは今後、飛躍的に良くなると確信します。
 茨城県北芸術祭の課題は、トップクラスのアーティストを迎えて、そこに住む県北の住民がいかに影響を受けるかということです。アーティストのエネルギをー十分に吸収し、地域おこしの、地方創生のエネルギーに変えていくことが出来るか、多額の税金を投下した意味が、そこに隠されています。

今年・来年開催される主な芸術祭(朝日新聞のまとめによる)
・みちのおくの芸術祭=山形ビエンナーレ<会期> ~9月25日
・あいちトリエンナーレ<会期> ~10月23日
・瀬戸内国際芸術祭(秋会期)<会期> 10月8日~11月6日
・茨城県北芸術祭<会期>【初】  ~11月20日
・岡山芸術交流【初】<会期> 10月9日~11月27日
・さいたまトリエンナーレ【初】 <会期> 9月24日~12月11日
・北アルプス国際芸術祭【初】 <会期> 2017年6月4日~7月30日
・Reborn-Art Festival【初】 <会期> 2017年7月22日~9月10日
・札幌国際芸術祭<会期> 2017年8月6日~10月1日
・奥能登国際芸術祭【初】 <会期> 2017年9月3日~10月22日
・横浜トリエンナーレ<会期> 2017年8月4日~11月5日