時論:県北芸術祭・自然と一体の空間に、客員論説委員・伊藤公象 茨城新聞(2015/11/29)
高萩市高戸海岸・カバコフ夫妻「落ちてきた空」

■自然と一体の空間に
 「県北芸術祭」が2016年秋(9月17日~11月20日)に、茨城県北の6市町(日立市、常陸太田市、高萩市、北茨城市、常陸大宮市、大子町)で開催される。橋本昌知事を委員長に関係地域や関連団体による総合的な支援を基盤にした実行委員会が組織され、国際的な現代美術に精通した南条史生氏(森美術館館長)を総合ディレクターに招聘(しょうへい)した。

 近年、芸術祭やアートフェスティバルの開催が国内外で活発に開かれ、インターネットで検索すると国内だけでも400カ所を上回るから、世界各国で開催されるものは驚くべき開催数になろう。では、何故こうした芸術祭の活況があるのだろうか。また、日頃聞き慣れた芸術祭とは何か、そしてそれが日常生活とどのように結び付くのか、一般にはあまり縁がない芸術文化でまちづくりができるのかと思われがちだ。

 しかし、中でも特色のある芸術祭「越後妻有(つまり)大地の芸術祭」には国内外からツアーなどでおよそ50万人の見学、参観者があり、香川、岡山県「瀬戸内国際芸術祭」でも延べ94万人が訪れている(主催者発表)。そのような芸術祭の活況は、従来の映画、演劇、芸能、美術など鑑賞の場(美術館など)とは異なる世界で人間の五感を刺激し、新たな創造性を生み出し、日常生活を豊かなものにする特色がある。また、観光や町の活性化につながる利点が挙げられる。
県北芸術祭エリアマップ
 県北地域の地図を開くと、東京方面からは常磐自動車道が常陸太田、日立、高萩、北茨城の各市を直結、途中の友部ジャンクション(JCT)で北関東自動車道が合流するから、群馬、栃木からの回路もある。また、茨城空港からも、県都水戸市から海岸沿いの6号線、常陸太田市外を抜けて福島県矢祭町に通じる茨城街道(棚倉道)、久慈川沿い(JR水郡線沿い)で大子町に至る国道118号線、常陸大宮を貫通して那須方面に向かう国道293号線が延び、扇状の交通網が見受けられる。その扇状に沿って里山や渓谷、河川、ダム、県立自然公園、海浜を緩やかに回遊する地形はそれこそ主テーマとなる「海か、山か、芸術か?」に適したものであろう。その「…芸術か?」の「?」は、「海も、山も、芸術も、自然と日常生活と同義」と位置付けるコンセプトによるものと思われる。

 そして県北地域の風光明媚(めいび)な海浜、豊かな自然を持つ山間部が複合する恵まれた地形を活用する一方、工業、産業の発展基盤でもある日立地域の科学技術とアートの融合を図り、「”驚きと感動”を誘う先端の”今ここ”でなければ生まれてこない独自性と創造性あふれる芸術祭を目指す南条総合ディレクターの抱負を基盤とし、加えて国際的なアートの経験豊かなディレクターチームが実行委員会や茨城県企画部県北振興課と一体となって、開催準備を急いでいる。それは「県北芸術祭」が国際的にも現代のビッグなアートイベントであるかを如実に示すもので、自然と対話するアート」、「科学技術を活用した先進的なアート」とともに、想像と革新を基底に据えた日本初の「アートハッカソン」も企画されている。この一般に聞き慣れないハッカソンについての結果の公表や、詳細など「アートの玉手箱」のふた開けが待ち望まれる。

 作品を見るだけでなく、その空間をも作品として見る、感じる、読むことで、画期的な「県北芸術祭」全体を「アートな空間」として眼を見張りたい。

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pearl blueの襞 ー空へ・ソラからー:高萩市穂積家住宅
■伊藤公象(いとうこうしょう)造形作家
1932年金沢市出身。笠間市在住。金沢美術工芸大学客員教授。インド・トリエンナーレ、ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本代表出品。90年女子美術大・大学院、2002年金沢美術工芸大学大学院専任教授を歴任。
■茨城新聞2015年11月29日付け“時論”を掲載、写真はブログ管理者が撮影