茨城新聞10月17日付け「連載・私を生きる」に、最年少で茨城県北芸術祭の公募作家に選ばれた「松井靖果」さんが紹介されました。
常陸多賀花金ビルの3階に展示された「この先、記憶の十字交差あり。」との、約15分間の映像と絵画を組み合わせたインスタレーション。松井さんの幼少期の記憶をもとに綴られています。

■記憶のかけら表現 県北芸術祭最年少芸術家、松井靖果さん 映像と絵画で空間作品
空き店舗を活用した暗い部屋の大型スクリーンに、記憶の断片が映し出される。


茨城新聞(2014/10/17)母と歩いた道、中学校の卒業アルバム、ピアノ、時計、失恋、友達、ケーキの味…。
別の壁面にはこれらを描いた絵画が掛かる。部屋には早送りや逆再生で加工された肉声が響く。
開催中の茨城県北芸術祭で、日立市のJR常陸多賀駅前の商店街に展示されている同市出身、松井靖果(しずか)さん(24)=千葉県松戸市=の作品だ。
タイトルは「この先、記憶の十字交差あり。」。約15分間の映像と絵画を組み合わせたインスタレーション(空間芸術)で、題材は幼い時に日立市内や東海村で暮らした記憶のかけらたちだ。
参加アーティストの中で、最年少。独特な存在感を持った作品は異彩を放つ。
会場を訪れる人の反応は、さまざま。異質な世界観に対し、意表を突かれる人も少なくない。
「時間を割いて作品を見てくれるのはありがたい。人の心に何かを植え付けることができたと感じるのは、うれしい」
大規模な芸術祭に参加するのは初めて。作品が他者に触れる喜びをかみしめる。

昨秋、生まれ育った茨城で県北芸術祭が企画され、作品を公募していると知った。
「絶対に勝ち取りたい」自らの記憶を作品にしようと思い立った。
「思い出そうとしない限り、いいことも悪いことも消えてしまうような気がして。今があるのは過去があるから。自分がたどった道を顕在化させ、自分が死んだ後も残るといい」
国内外で活躍する参加アーティストの中で、自身の経験のなさにコンプレックスを感じることもあったが、「若いからこそ時間と体力がある」と気持ちを切り替えた。
寝食を忘れるほど、のめり込んで完成させた作品は、107点の中から、公募作品8点の一つに選ばれた。

子どもの頃から絵を描くのが好きで、東京都内の女子美術大短大部に入学。専攻科も含め3年間、油彩画や映像などを学んだ。
将来を模索する中で卒業後、英国に8カ月間、短期留学した。語学学校に通うなどしながら作品制作から離れた時間を過ごした。
充実感を得られず、「おかしくなりそうだった」。自分は何かを作りたいのだと、思い知らされた。
「制作はご飯を食べるみたいに必要なもの。制作でしか自分の存在価値が認められない気がしている」

県北芸術祭を両親が見に来てくれた。気恥ずかしく、感想は多く聞かなかったが、あまり芸術には興味がない両親が各会場を巡り、他のアーティストの作品について話をしているのは、うれしかった。地域に芸術が溶け込むのを感じる。
現在はアルバイトをする傍ら、作品の制作を続ける。
次に挑戦する公募展の構想も練り始めた。今後も映像と絵画を組み合わせたインスタレーションを作りたい。最近は演じることにも興味がある。自分の関心を素直に作品に取り入れたい。
「みんなが認識しているようなアーティストになりたい」
とにかく作品を作り、表現すること-。今はただ、そのスタートラインに立ったばかりだ。
松井靖果

A-24 P70 松井靖果(この先、記憶の十字交差あり。)
花金ビル3F:日立市多賀町1-15-3